埼玉医科大学 腎臓内科 鈴木 洋通教授 平成16年4月19日原稿受領 以下の文章および図の著作権は鈴木洋通先生にありますので禁無断転載となります。 1.「腎と血圧調節、基礎と臨床」ということでお話をさせていただきます。 2.まず腎臓の血圧調節を理解するということは、臨床においては特に薬物との関連においての理解が大切だと私は考えております。 3.そこで、この図に書きましたように、腎臓の血圧調節はマクロな血圧調節因子とミクロな血圧調節因子があると名づけております。この図は私の恩師であります現慶応義塾大学教授の猿田享男先生とともに作り上げたものですが、マクロの血圧調節因子としては、腎臓の交感神経、それから腎臓に来る血流量、さらに圧−利尿という機構があると考えております。 一方、ミクロな血圧調節因子としては輸入出細動脈に挟まれている糸球体内圧、さらに尿細管糸球体フィードバック機構があるというふうに想定しております。そしてこれらが血管作動物質によって制御されていると想定しているわけです。 4.では、この圧−利尿というのは一体どういうものなのかということについて簡単にご説明をさせていただきます。この提唱者はGuytonでありますが、Guytonは腎臓においてはある灌流圧、すなわちここで見てみますと、大体その圧が75〜200前後までは糸球体の血流量と糸球体濾過量というものは一定に保たれています。一方、腎臓が正常に機能すれば、人間はこのような状態においては摂取した分のナトリウムをそのまま尿に排泄することができるというふうに考えられております
(1)。すなわちここの点線で記してあるnormalです。一方、もし腎臓に何らかの障害がある場合、この黄色い曲線で示すように灌流圧を上げる、すなわち血圧を上げることによってしか腎臓に蓄積されるナトリウムを排泄することはできない。これがいわゆる圧ナトリウム利尿機構と自動能です。 5.さて、これを私たちは動物実験からまず見ていくということをしました。 6.圧ナトリウム利尿曲線を得るためのラットを用いた実験ですが、これはRomannたちがいち早く行っておりました。 7.すなわち麻酔下にラットを開腹いたしまして、腎臓の腎動脈の上下にクランプをかけます。そしてこのクランプを調節することによって腎動脈にかかる圧、すなわち腎臓にかかる圧を調節します。一方、この圧ナトリウム利尿機構は、神経因子あるいはホルモンというものにさまざまな影響を受けるために、まず腎臓にいっている交感神経を遮断します。一方、隣の対側の腎臓と副腎は摘出し、さらに同側の副腎も摘出します。これは先ほど述べたように、圧ナトリウム利尿機構がホルモンによってもさまざまな影響を受けるからです。そしてこのホルモンの状態を一定に保つために、静脈からノルエピネフリン、アンジオテンシンII、バゾプレッシン、アルドステロンを一定量流すことにします。そして先ほどかけました上下のクランプの圧を調節することによって腎臓に入る灌流圧を調節し、そして出てくる尿を採取することによって、血圧とナトリウム利尿の関係を得るというのがこの方法です
(2)。 8.そしてまず私どもはカルシウム拮抗薬というものが、この圧−利尿、あるいは腎の自動能にどのような影響を与えるかを検討してみました。そうしますとこの図に示してありますように、Dahl
Ratを用いて行った実験ですが、カルシウム拮抗薬の投与によりいわゆる腎臓の自動能が破綻していく。すなわち点線で書いてあるところがプラセボ、実線のところがカルシウム拮抗薬です。カルシウム拮抗薬を入れることによって、さまざまなDahl
Rat、すなわち食塩感受性のあるなし、あるいは食塩感受性のあるものにナトリウムを負荷した。いずれの状態においても腎臓の腎血流量は灌流圧によって一定にならないということが得られました
(3)。 9.したがって当然のことですが、糸球体濾過量もこのように灌流圧に応じて上昇するということで、腎臓の自動能が破綻してしまうということが見られるわけです。 10.一方ナトリウム利尿に関して見ますと、もちろんややこの曲線はシフトするわけですが、大きなシフトは見られない。すなわち腎臓の自動能が破綻してしまった結果、カルシウム拮抗薬は急性期においてはナトリウム利尿をそれほど大きく起こすことはできないということがわかったわけです。 すなわちカルシウム拮抗薬の急速投与は、腎の自動能に狂いを生じさせる。 11.一方、そのような状況で私どもは慢性にカルシウム拮抗薬を投与し再び同様な実験を行ったところ、腎臓の灌流圧に対して腎血流量は一定となり、さらに糸球体濾過量も一定となり、 12,13. 一方、圧ナトリウム利尿曲線は正常方向にシフトするということが得られました
(4)。 14. このようなことからカルシウム拮抗薬を慢性に、すなわち長期間にわたって投与することによって、短期投与、すなわち急速投与ではいわゆる腎臓の自動能の破綻というものが見られたわけですが、それらが解消し、さらに圧ナトリウム利尿曲線をも正常化する方向に行く。すなわちカルシウム拮抗薬は従来考えられていたように腎臓に悪いというのではなくて、むしろ慢性の長時間作用型のカルシウム拮抗薬投与では決して腎臓に不利益をもたらすことはないということが証明されたわけです。 15.次に私どもはもうひとつのファクターである腎交感神経を用いた圧受容体反射の検討を行いました。 16.これは腎臓の腎動脈に白金線をかけ、そしてそこから腎臓の交感神経活動を探る装置であります。この装置を用いることによって、例えば血圧を上げる、あるいは向かって右側のように血圧を下げる。 そういたしますと、そのグラフのちょうど真ん中ぐらいにありますRenal
Neurogramというところを見ていただきますと、血圧を上げることによって腎臓の交感神経活動は低下し、一方血圧を下げることによって腎臓の交感神経活動は亢進する。これらよって、腎交感神経活動と血圧との間の圧受容体反射というものを取ることができるわけです
(5, 6)。 17.そして私どもはこのようなことを用いまして、長期間にわたって各種降圧薬を高血圧自然発症ラット(SHR:Spontaneously
Hypertensive
Rats)においてこれらの関係を見てみたわけです。そういたしますと大変驚くべき結果がわかったわけですが、このように長期間にわたって各降圧薬を投与したところ、これらはこのピンクのところを見ていただくとわかるのですが、ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬、β遮断薬、利尿薬、すべてに同じようなカ−ブが得られることがわかりました。これはすなわち長期間にわたる各降圧薬の投与は圧受容体反射に見てみますと同じような影響を及ぼす。すなわちこれはどういうかといいますと、最近発表されましたALLHAT(Antihypertensive
and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack
Trial)研究
(7)において、各降圧薬が同じようにいわゆる心血管系臓器の退縮というものを起こしている可能性があると指摘されているわけですが、まさに私たちの成績は約10年前に動物実験においてそれを証明したものではないかと考えています
(8, 9)。 18.一方、これを心拍数で見てみますと、心拍数においては副交感神経の要素が入ってくるために必ずしも一定の結果は得られませんでしたが、カルシウム拮抗薬とACE阻害薬、利尿薬においてはほぼ同様な結果が得られました。一方、β遮断薬においてはこれは心臓にさまざまな変力作用をもたらすことにより、このようなカーブがやや異なったものと考えました。 19.さらに私どもはこのような交感神経活動と腎臓の血流量がACE阻害薬あるいはカルシウム拮抗薬でどのようになるかを検討いたしました。そういたしましたところ、両方とも同じように血圧を下げてみましたが、腎臓の血流量で見てみますと、むしろACE阻害薬で増加し、カルシウム拮抗薬では減少することがわかりました。 20,21,22,23,24.一方、同じような状態で腎交感神経活動を見ますと、ACE阻害薬は腎交感神経活動を増強させ、カルシウム拮抗薬はむしろ逆に腎交感神経活動を亢進させないという結果が得られました。これらはすべての高血圧に当てはまるのではなくて、私どもが用いたいわゆる腎血管性高血圧、これは家兎での実験ですが、いわゆるレニン−アンジオテンシン系が亢進しているという場合には、むしろACE阻害薬というのは腎臓の血流量は増加させるが、腎交感神経活動は逆に亢進させている可能性があるというパラドックスを見事に示した結果だと考えております
(10)。
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