第2部:血圧変動と降圧薬治療

 後半は、私の研究分野でもあります血圧変動という立場からお話しさせていただきたいと思います。

○夜間血圧の意義

 長い間、高血圧の診断と治療は外来で医師が測定する血圧をもとに行われてきました。しかし、最近この外来で測定する血圧が必ずしも患者本来の血圧を反映しないのではないかとの考え方が生まれてきました。外来で医者がはかる血圧は、写真で言えばスナップショットなので、実は患者本来の血圧なわけはないわけです。我々のような病院に勤めている人は、病院は普通の職場で何ともないように思いますけれども、一般の方にとっては、病院というのはめったに行きくない場所です。そういうところではかった血圧が、その人個人の本当の値であるわけはないのです。 また1日の1/3を占める夜間血圧や早朝血圧が無視されてきました。

われわれは、既に降圧薬を服用している高齢者の方に24時間血圧計を装着して、4.5年間追跡して、脳卒中・心筋梗塞の発症のリスクとそれぞれの血圧との関係をみてみました。

血圧のレベルを4群に分けてみましたけれども、どういう血圧のレベルでも、外来血圧で見る限り、発症にはそんなに差はありませんでした。外来血圧はやはり白衣高血圧だとかいろいろな影響があって、余り影響されていないと。 しかし24時間血圧は高い人ほど脳卒中・心筋梗塞になりやすいという傾向がはっきりみられました。これを昼と夜とに分けてみますと、昼間血圧は130から150の間にほどよくおさまっているためにリスクには差はさほどありませんでした。ということは、昼間血圧は、どんな薬を使っても大体下がっているということです。しかし、差が出たのはやはり夜間なのですね。夜間血圧が一番高い群というのは、一番低い群に比べて約4倍、脳卒中・心筋梗塞の発症率が高かったというデータが出たのです。昼間血圧だけでなく、夜間血圧もきちっと下がるような薬をもらったか群が、イベントの発症がもっとも少なかったということを意味しています。

○朝の血圧と仮面高血圧

 次に、朝の血圧。朝の血圧に関しては、いろいろな疾患の発症時間帯というのがありまして、朝は、いろいろな心血管系のイベントが起こりやすい時間帯です。副交感から交感神経に移る時間帯ですに。この間に、いろいろな心血管イベントが起こりやすいことがわかっています。

 このような早朝のイベント発症の基本には、糖尿病、喫煙、高血圧といった慢性のリスクの存在ということがあります。こういうものがあればあるほど、リスクが底上げされて、発症の閾値ラインに近づくわけです。これに、1日に何回か血圧が急に上がったり、あるいは血が固まりやすくなったり、凝固しやすくなったり、という急性リスクがくわわってイベントをおこすわけですが、もっとも起こしやすいのが朝というわけです。

 朝、血圧が高いタイプには、2とおりあります。1つはサージタイプといって、起きた瞬間に急激に血圧が上昇するタイプと、もう一つは夜間から持続して高いタイプ。私の施設での検討では、持続性タイプの方が問題があるようです。

69歳の女性で、こういう実例がありました。

 近くの先生で、外来で降圧薬を3剤ぐらい使っていると。カルシウ拮抗薬とACE阻害薬とα遮断薬の3剤使っていて、血圧は、上の方は120-130/75mmHg前後に、非常によくコントロールされていました。しかし、1年ぐらいの間に腎機能が悪化し、心電図上の左室肥大が強くなってきたために、一体どうしたのでしょうということで紹介されてきたわけです。早速私のところでは、早速24時間血圧を測定してみたところ、確かに時間帯は血圧が120-130/75 mmHg前後に下がっているように見えるのですね。しかし、問題は、仮面の下に隠された部分に臓器障害を起こす原因があったわけなのです。

仮面を剥ぐとこのように夜間から早朝にかけて血圧が著しく高いことがわかりました。すなわちこの時間帯に、臓器障害を進展させていたわけです。夜間から早朝にかけて、1日の3分の1の時間帯に著しく血圧が高いことが心肥大、腎障害をもたらしていたのです。

 この患者さんになぜこういうことが生じたかということですが、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、α遮断薬の組み合わせに問題があったわけです。しかし現在、多くの先生方はこの組み合わせを処方されている症例が非常に多いとおもいます。

 この3種類の降圧薬には共通点があります。まず、いずれも1985年以降の比較的新しい血管拡張薬であることです。もう一つは、血中濃度に依存して血管を拡張作用をはっきして降圧をもたらします。血中濃度が非常に高くなると降圧効果が強くなるので降圧効果が速やかに発現するために切れ味がよいという印象がある。一方従来の利尿薬だとかβ遮断薬は大体2週間とか4週間、それぐらい見ていて、ようやく血圧が下がってくる薬です。 しかも、いずれも朝、朝食後に1回服用と指導されている薬です。したがって朝、服用したら血圧は次第に下がり。外来を受診した頃に血圧はもっとも下がっているのです。しかし、その効果はながつづきせず、夜中になったらじわじわじわじわと血圧が上がって、夜中じゅう高いという現象が起こっているわけですね。まさに、この部分がマスクされている。Masked Hypertension、血圧が隠されているわけです。

 私の病院で、外来血圧がうまくコントロールされている患者さんの24時間血圧を見てみますと、夜間血圧のコントロールが不良で夜中中高いタイプと、もう一つは夜間もきちんと下がっているタイプの二つに分かれることが分かりました。夜間血圧が高いタイプが大体17人、大体22人の比率でした。夜間血圧が高い群がいわばMasked Hypertension、仮面高血圧に相当するグループになるわけです。

 仮面高血圧の発見には24時間血圧をはかればいいのですけれども、まだ保険適用が通っていませんから、実際の診療の現場でこれを発見する唯一の手段は、服薬の直前で家庭血圧をはかることなのです。すなわちtroughの時点で血圧をはかることによって降圧効果の持続性が評価されるのです。

 PAMELA研究というイタリアの研究では、外来血圧が正常で、24時間血圧のみが高いタイプの高血圧は、心重量が重く、左室肥大の頻度が高いと報告しています。 

私のところでは、先ほどの早朝高血圧、朝、血圧が高い例、non-dipperというのはどのぐらいいるのだろうということを調べてみたわけですね。そうしますと、特に降圧薬を飲んでいる人ですけれども、朝、血圧が高いタイプはやはり持続性の人が多いのです。早朝高血圧の内訳は、こっちの人の方が多いということがわかったわけです。

 仮面高血圧の危険性がエビデンスで示されたのは、2002年の国際高血圧学会で、Upsala大学のグループですが、かれらは24時間血圧のみが高い例をIAH(Isolated Ambulatory Hipertention)として、これの4年間の追跡調査のイベント発症率を見たところ、この群の脳心血管イベント発症率は正常血圧の2.67倍が高かったと報告しました。

 同じ学会で24時間血圧の専門家である有名なPickering博士が、長期追跡試験の結果やはり仮面高血圧のリスクは、正常血圧よりも有意に高く、見逃すと非常に危険だということを示しています。

 仮面高血圧というのは、診察室では正常だけれども、24時間血圧または家庭血圧は高血圧の症例というように定義できます。従来も、Isolated Ambulatory Hyper-tensionだとかWhitecoat Normaltension、白衣正常血圧、Reversed Whitecoat Hyperten-sion、逆白衣高血圧などの名前で呼ばれていて、散発的に研究結果は発表され、その危険性が指摘されていたわけです。

○24時間をとうしての降圧方法

 単に外来血圧だけではなくて、降圧パターンというのが非常に大事だということをしめしています。従来の血圧は、確かに飲んだら外来で来たとき血圧は下がるわけですが、、夜間から明け方にかけてはずっと高いわけです。

 同じような薬をもう一つ2剤、3剤追加すると、今度は昼間の血圧が下がり過ぎるますが、やはり夜間から早朝にかけての血圧は高いという現象になるわけです。理想的には、1回飲んだら24時間を通して、降圧効果が次回服薬時まで持続しているということです。ですから、要はTP比の高い薬ということになるわけですね。こういうような降圧効果が持続するということがある。こういうことによって、たとえ1回ぐらい飲み忘れても、その効果が続くということ、リバウンドがないということ、いろいろなメリットがあるわけです。

T/P比というのは、一番血中濃度が薄れて、降圧効果が弱まるときの血圧がきちっと下がっているということが大事であるということを示した概念です。

 今までの血圧というのは、ピークの時間帯で測定していたわけですけれども、重要なことはトラフの時間帯にはかるべきなのです。薬の服用も必ずしも朝1回飲む必要はないわけで、就寝前でもかまわないわけです。仮面高血圧の予防には、実際どうしたらいいかということですけれども、朝1回ということにこだわることなく、例えば1日1回でいいですよという、カルシウム拮抗薬、ACE阻害薬でも実際には続かない薬がたくさんあるわけです。対策として、そういう薬を2回に分けて使うなり、あるいは、朝だけ高い場合には、夕方投与ということも考える必要があります。まさに、今までは一番降圧効果が強い時点で血圧をはかっていて、それを評価してきてきましたが、これからは、降圧効果がもっとも弱まった時点の血圧で評価すべきなのです。

 それでは、仮面高血圧を発見、予防するにはどうしたらいいかということです。実際的には家庭血圧計を応用するのが一番なわけですけれども、1日1回測るとすれば、朝です。早朝高血圧というのは、服薬前の血圧をきちっととらえるということ。それが下がっていれば、夜間も下がっているということが言えるわけです。それから、もう一回はかるとすれば、寝る前です。そうすることによって、夜間血圧をある程度推測できるわけです。しかし就寝前は、晩酌の影響が大きい、入浴の影響が大きいので要注意です。お酒を飲みますと、血管拡張作用によって2時間ぐらいは血管が拡張して血圧が下がっています。その後、数時間で血圧が元のレベルに上がります。おふろも全く同じ現象が起こるので、おふろから出た後に血圧をはかってしまうと、判断を誤ってしまうということになります。

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