「EBMにもとづく高齢者高血圧のありかた

      −早朝高血圧から仮面高血圧へ−」

 

 

東京都老人医療センター 循環器部長 桑島 巌 先生

平成15年7月28日札幌にてご講演

平成15年10月2日原稿受領

以下の文章および図の著作権は桑島巌先生にありますので禁無断転載となります。

 

○座長(札幌厚生病院循環器科 神田) それでは、生活習慣病臨床医会の第1回目を開催したいと思います(平成15年7月28日)。

 本日は、大変お忙しいところを多数お集まりいただきまして、ありがとうございます。

 生活習慣病臨床医会というのは、糖尿病の専門医及び循環器の専門医を中心とした勤務医及びクリニックの医師の勉強会としてスタートしたばかりです。

 その第1回目の特別講演のために、本日は、東京都老人医療センター循環器科部長の桑島巌先生をお迎えしました。桑島巌先生は、高血圧研究の大家としてご高名であり、どなたも御存じだと思います。

 恒例ですので、御略歴を申し上げます。

 桑島先生は、昭和20年のお生まれです。昭和46年に岩手医科大学医学部を卒業され、48年に研修医終了後、東京都養育院附属病院循環器科に勤務されております。昭和55年から2年間、米国ニューオーリンズ・オックスナー研究所留学、ドクター・フローリッヒに師事されております。昭和60年、東京都養育院の組織が改正されまして、現在の東京都老人医療センターに名称が変更されております。62年に同センターの内科医長となられ、63年にセンターの循環器科医長、そして平成9年に東京都老人医療センターの循環器科部長として現在に至っております。

 先生は、日本循環器学会及び日本高血圧学会、日本老年病学会、それから日本心臓病学会の評議員の重責をお務めになっております。

 先生のお仕事は、挙げられないぐらい数多いのですけれども、著書として「血圧日内変動の臨床」とか「EBMから学ぶ循環器疾患の治療」など、多数にわたります。

 それから、インターネット上でも、先ほどお聞きしたのですけれども、医学のポータルサイトでは、旧メディプロ、現在はM3ドットコムというふうに名前が変わっていますけれども、循環器のトライアルデータベースの編集者でもあり、高血圧関係のトライアルのレビューも担当されており、我々臨床家にとっては高血圧の研究の動向をいち早く知るには欠かせないサイトとなっています。

 桑島先生は、高齢者高血圧及び高血圧性心疾患の臨床研究を専門とされ、今でこそ早朝高血圧が高血圧の話題としてにぎわっていますが、先生は既に10年以上前、たしか93年ぐらいだったと記憶しているのですけれども、10年以上も前に早朝高血圧のタイプ分けとか、頻度調査及び心血管イベントとの関連についての理論的な背景を論文にされています。論文を拝見した当時のインパクトは、私どもにとってまことに斬新なものでした。その先生の説得力のある先見性に感銘し、私どもの日常臨床でも、どうしたら早朝高血圧を抑制できるかを念頭に高血圧治療に当たってきました。

 手前みそになりますけれども、当科の高血圧患者約1,500人を対象に早朝高血圧の治療のため、降圧剤の就寝前投与の処方内容を検討しましたところ、長時間作用性カルシウム拮抗剤が約450例、α遮断薬が150の計600例、つまり高血圧症例の40%強がABPMや家庭血圧による早朝高血圧として治療されていました。特に脳卒中の発生率は、治療例では数えるほどしか、この9年で発生していません。桑島先生の10年前の警鐘が臨床の現場で実を結んでいるものと、深く感謝を申し上げ、また、先生の時代の先を見抜く先見性には驚くばかりであります。

 本日は「EBMにもとづく高齢者高血圧のありかた−早朝高血圧から仮面高血圧へ−」と題した講演をいただきますが、高血圧の臨床に関する新たな治験とさらなる臨床家への指針を拝聴できるものと、楽しみにしています。

長くなりましたが、先生、よろしくお願いします。

○桑島氏 多大な御紹介をいただきまして、ありがとうございました。

 きょうは、生活習慣病臨床医会、しかも第1回という記念すべき研究会にお招きいただきまして、大変光栄に存じております。

 ただ今御紹介いただきましたように、私は研修医を終了後間もなく、現在の東京都老人医療センターの前身であります養育院附属病院に就職いたしました。当時は高齢者高血圧は加齢にともなう生理的変化であるという考えが一般的で、ほとんど見向きもされなかった分野ですけれども、初代病院長の故村上先生は将来、高齢者の高血圧は非常に重要になることを予測され、当センターの研究テーマの1つとしたわけです。きょうは、そのような私どもの臨床研究と最近のエビデンスをもとに高齢者高血圧診断と治療についてお話しさせていただきます。

 第1部 高齢者高血圧の特徴と治療

○ 高齢者高血圧の治療

 まず、高齢者の高血圧の特徴ですが、最大の特徴は収縮期血圧のみが高く、拡張期血圧はむしろ低い、いわゆる収縮期型高血圧の頻度が非常に高いということです。したがって、脈圧が大きい症例が増えてきます。次の特徴として、高齢者では単に高血圧だけというのはむしろ少なく、すでに合併症をすでに患っていたり、糖尿病や高脂血症などのやリスクを複数有している症例がふえてくるのも特徴です。

血圧が非常に変動しやすいのもおおきな特徴です。ごく短時間の間に血圧は大きく変動します。その結果、外来のみで血圧が上昇する白衣高血圧が非常にふえて参ります。 一方において、今度、夜間の方は、就眠中の血圧はむしろ下がりにくい例が多いということが、大きな臨床上の特徴であります。

 有名なフラミンガム研究における24年間の追跡調査によりますと、収縮期血圧は、年齢とともにだんだん上昇し、60歳をすぎるとさらに急峻になる傾向があります。しかし、拡張期血圧は、大体60歳から65歳を境に下がってまいります。結果的に70歳を過ぎた高齢者になりますと、上と下の血圧の差が大きい、脈圧が大きい症例が非常にふえてくるわけであります。

○脈圧の意義について

 最近高血圧の分野で今非常に注目されているのが、この脈圧であります。今までは絶対値だけが注目されておりましたけれども、脈圧を知ることによって血圧の動き、変動、脈の動きというものがよくわかるわけです。この脈圧が注目されたきっかけは、ベルギーの Dr.Staessen が七つの大規模臨床試験のメターナリスの結果から、脈圧が大きくなるにつれて心血管イベントの発症数が増すというデータを発表して以来、脈圧というものが非常に注目されることになったのです。

 同じく、Dr.Staessenは、血圧と死亡の関係を見ていますが、収縮期血圧に関しては上上昇するにつれて、死亡のリスクは右肩上がりに増すわけですけれども、拡張期血圧にかんしては、90mmHg以下よりも下がるにつれてむしろ死亡のリスクが上に上がっていくということを報告し、注目を浴びました。

 高齢者で脈圧が大きくなる最大の理由は大動脈のWindkessel(ふいご)機能の減少です。若い時は大動脈が非常にしなやかなために。心臓が収縮して大動脈弁が開放されたときに、拍出された血液の60%ぐらいが、しなやかな大動脈の内側に貯蔵されて、残りの40%のみが末梢動脈へ流れるます。

 一方、拡張期に大動脈弁が閉じますと、大動脈壁の収縮によって大動脈壁の内側に貯蔵されていた残りの60%の血液がじわっと送り出されるわけです。このことによって、拡張血圧が80なり90ミリといった圧が保たれるわけです。これは、心臓の収縮、拡張関係なく間断なく末梢に血液を送り出すための機構で、鉄の加工のときに風を送る「ふいご」の機能に似ているので、Windkessel Function(ふいご機能)と言うわけです。このふいご機能があるために、拡張血圧がある程度保たれるわけです。

 しかし、高齢者になりますと、大動脈が硬くなります。そうしますと、60%が収縮期に末梢に送られ、大動脈の中に蓄えられる血液量は残りの40%ぐらいになります、したがって、拡張期には、大動脈に貯えられていた40%のみが出ていくということで、送り出される量も少なくなるわけです。すなわちWindkessel 機能の減弱が高齢者が脈圧を大きくさせる原因なわけです。

 もう一つ大事なのは、反射波の影響です。反射波は血管壁を伝わっていく振動でありますが、若い方の反射波は大動脈壁がしなやかなために、拡張期に乗っかりますので、収縮血圧はほとんど影響を与えません。しかし高齢者の方での反射波は大動脈壁が硬く、コンプライアンスが低下しているために、速く反射して戻ってくるために収縮期のピークに重なってします。そこで、反射波の分だけ高くなってしまい、高齢者の方の収縮期血圧が高くなってしまうというわけであります。

 Dr. Benetosたちの追跡調査の結果によりますと、血圧が正常であっても、血圧が高くても、脈圧を四つの区分に分けてみると、脈圧が一番大きな群では生存率がもっとも低いというデータを出しています。

 同じくかれらの成績によりますと、収縮期血圧が上がって、拡張期血圧が下がってくるタイプがもっとも予後が不良で、次に収縮期血圧だけが上がってくるタイプがよくありません。収縮期血圧だけが下がってくるのはそれほど予後は悪くないようです。つまり脈圧の増大は大動脈硬化が進展した結果を反映している一つのマーカーであるということでもあるわけです。

 よく患者さんから、上の血圧と下の血圧はどっちが高いとよくないのですかとか、あるいは、上と下の血圧の差が大きい方が悪いのですか、小さい方が悪いのですかと、などとよく質問されると思いますけれども、フラミンガム研究をまとめたフランクリンという人のデータでは、その答えは年齢によって異なるようです。若い方では、やはり拡張血圧が高く、脈圧が小さいと心筋梗塞のリスクであるとしています。しかし、高齢者になりますと、一番予後不良なのは脈圧の大きな例、次に収縮血圧の高い症例です。

○高齢者高血圧の高圧目標値について

 日本の高血圧のガイドラインが2000年に高齢者の降圧目標値は70歳代は150から160/90未満というふうになっているのですけれども、これは年齢+90という昔ながらの考え方をそのまま採用したわけです。

 しかし、世界のガイドラインをみると、WHO/ISH、米国の第6次専門委員会報告、それからイギリス高血圧学会のガイドライン。それらのいずれもが、収縮期血圧は140mmH未満に下げるべきであるとでは一致してします。欧米のガイドラインでは、糖尿病、腎障害を合併している例での降圧目標値は130/85以下にすべきとしていますが、この部分は。日本の高血圧学会のガイドラインは、同じです。しかし、高齢者の部分になりますと、突如、年齢+90mmHgになっているのです。最近発表された米国専門委員会第7次勧告(JNC-7)では、高齢者高血圧の項目はなくなっており、高齢者の高血圧はもはや特殊な高血圧ではないことを明瞭に示しています。ヨーロッパ高血圧学会/心臓病学会のガイドライでも、年齢による区別は一切せず。降圧目標値で区別するのは、糖尿病と腎障害だけであるという方針を貫いていますし、高齢者高血圧の問題は、もう既に解決済みという方針を打ち出しているわけです。

 今までの大規模臨床試験における収縮期血圧の降圧達成レベルをみますと、特SHEP研究では143mmHgまで下がっています。プラセボ群では155mmHgまで降圧し、治療群ではと143まで下がっています。この降圧レベルの差異が脳卒中の発症を36%抑制したとかんがえられるのです。 日本の高血圧学会のガイドラインによりますと、160mmHg未満ということになっていますから、プラセボのレベルでもいいということになってしまいます。欧米のガイドラインは、SHEP研究の結果が発表された時点で、140mmHg以下に下げることによってメリットが得られるのは明らかだとしているわけです。

わが国を代表する久山町研究におきましても、九州大学の有馬先生と清原先生が最近、新しい血圧と脳血管合併症の関係を発表しておられます。すなわち、70歳以上にでは収縮期血圧が140mmHg以上になると、脳心血管合併症の発症率が増すというデータを発表しています。 

SHEP研究は高齢者の収縮期型高血圧における降圧薬治療の有用性を世界ではじめて明らかにした大規模臨床試験ですが、この結果が発表されて以来、高齢者でも厳格な降圧が必要であるという考え方が定まったわけです。 

このSHEP研究ではサブ解析を行っています。このサブ解析ではプラセボ群も実薬群も全く一つにまとめて、降圧レベルだけで比較し、統計をとってみたわけです。すなわち、160未満まで下がった人と下がらなかった人を比較してみますと、当然ながら、160未満まで下がった人の方が脳卒中の発症は少なかった。 では、今度は150未満まで達した人と150未満まで達しなかった人を比較したらどうかということでみますと、やはり150未満まで下げた方が下がらなかったよりも圧倒的に脳卒中の発症は少なかったという結果でした。

 それでは、わが国の論点であります140mmHgというところではどうかということで見ますと、140では中心点が0.78というところで、大幅に140mmHg未満の方がよいというところに傾いていると。しかし、95%信頼感がわずかのところでひっかかっているのですね。これは、本試験では140mmHg未満までさがった症例数が少なくなったためであり、このデータを素直にみると当然ながら降圧レベルは140mmHg以下で圧倒的に脳卒中が予防できているのは明らかです。

○高齢者高血圧の治療とNNT

高齢者の高血圧治療は、費用対効果の面からみると、むしろ若い人よりも良好です。最近、大規模臨床試験の結果を評価するのに、NNT(Number Needs to Treat)という考え方が使われています。これは、一つのイベント発症を予防するのに、何人治療すればよいかという考え方です。

 このような考え方を示すのに、代表的なのは、若年者と高齢者を示すのが一番わかりやすい。これは、相対的リスク減少、絶対的リスク減少というものの考え方があります。例えばAという新薬が出たと、そうしますと、Aという新薬では若い人200人に使ってみて、プラセボ群の人では100人中2人心筋梗塞になったけれども、治療群では100人中1人が心筋梗塞にすぎなかった。ですから、死亡率は100分の2から100分の1になる。実に半分、すなわち50%減少ということになります。一見、これはすごい効果にみえますが、実は100人中1人しか心筋梗塞を防げていないのですね。つまり、一つの心筋梗塞の発症を予防するのに、100人治療しなければならないということです。

 一方、高齢者になりますと、既に動脈硬化が進展しているということで、もともと心筋梗塞になりやすいということがあります。Aという新薬を高齢者に使いまして、実薬群では100人中15人が心筋梗塞になりましたが、プラセボでは100人中20人でしたと。そうすると、5から20で25%の減少という計算になるわけです。しかし、25%というと、若い人よりも少ないような印象がありますね。高齢者というのは、やはり予防効果がないのではないかというように考えがちですけれども、実は100人中5人が心筋梗塞から免れているわけですね。ということは、この逆数をとりますと、20人に1人治療すれば心筋梗塞が予防できるということで、まさに高齢者ほど効率のよい治療ができるということです。

Dr.Staessenたちがおこなった60歳以上の高血圧治療に関するの8つのトライアルからのメタアナリシスで、一つのイベントを防ぐのに何人治療すればいいか、NNTを出してみた成績です。年齢別に見てみると、70歳以上の人では、32人治療すれば一つのイベントを予防できるのに対して、60歳代の人は、大体100人近く治療しなければならないということで、70歳代の方がよほど治療効率がいいわけです。また、合併症がある人の方がない人よりもNNTは少なくて済むわけです。

 こういうことから、むしろ高齢者あるいは合併症のある人ほど、積極的な降圧が求められるわけです。

○日本人の高血圧合併症は脳卒中が多い

 高血圧の2大合併症は脳卒中、心筋梗塞が代表的なものですが、人種別に脳卒中と心筋梗塞の高血圧の合併症としての二つの疾患の比率を見てみます。SHEP,Syst-Durなどの欧米の大規模臨床試験を見てみますと、脳卒中と心筋梗塞の発症率は大体同じぐらいです。一方、日本や中国の大規模臨床試験の結果を見てみますと、脳卒中の方が4倍から8倍多いのです。日本はやはり高血圧の合併症ということでは、脳卒中予防をターゲットとした治療を心がけなければならないということになります。

 それでは、脳卒中予防のために何をすればいいかということになりますけれども、今までの大規模臨床試験から成績を。治療薬と対症薬、あるいは治療薬とプラセボの降圧の差を横軸にとり、イベント発症のオッズ比を縦軸にみますと、降圧の差が大きければ大きいほどオッズ比は小さくなるということは、降圧が大きいほど、脳卒中の予防効果が大きいということなのです。ですから、脳卒中の発症は、やはり血圧をきちっと抑えることが大事であるということが言えるわけであります。

○拡張期血圧が60mmHgではかえってリスクが上昇

高齢者でもきちっと上の血圧を140以下まで下げるべきだというようにお話ししましたけれども、ただ、その場合に、脈圧の大きい症例では収縮期血圧と下げていくと、拡張期血圧が下がり過ぎる場合があります。SHEP研究のサブ解析の結果によりますと、拡張血圧が60mmHg以下になりますと、相対的リスクがだんだんだんだん上がっていく傾向がみられ、心血管リスクが上がっていく可能性があるということが示唆されます。したがって、収縮期血圧は可能な限り140未満まで下げるべきですが、その下げる過程で拡張血圧が 60mmHg未満になるようであれば、その降圧を緩めることが実際的な方法になるかと思います。

○ 脳卒中合併例での降圧レベル

日本のガイドラインでは、脳卒中と合併した患者の降圧剤目標値が、140-150mmHgとなっています。日本では脳卒中患者では脳循環調節機構が破綻しているために、血圧を下げるとかえって血流が少なくなって、痴呆が進むのだという考え方が昔からあったわけです。欧州から脳卒中を一度患った方の降圧薬治療の有用性を検討したがPROGRESS研究が発表されています。これは、脳卒中の再発予防におけるACE阻害薬の有用性を検討した研究です。過去5年以内に脳卒中の既往を有する例がエントリーされています。薬剤としてはペリンドプリル対プラセボという比較試験です。しかし、本試験のユニークなところは、ペリンドプリルは必ず使わなければいけないが、主治医の判断でインダパミドを加えてもいいというプロトコルです。

その結果、ペリンドプリルを基本とした治療群では、プラセボ群に比較して脳卒中の再発率は28%減少して、NNTは25人でした。すなわち25人治療すれば、5年間に1人のイベントを防ぐことができるということが明らかになったわけであります。

 これをさらにサブ解析してみると、高血圧の有無にかかわらずが、ペリントプリルを基本薬とした降圧薬治療は脳卒中の再発を予防したということでした。

 PROGRESSという試験から、実際には脳卒中を一度患った患者の降圧レベルというのはどの位かということを論文から読み取ってみました。そうしますと、高血圧群では159から149.5 mmHgと、大体10ぐらい下がり。非高血圧群では136から127mmHgまで降圧しています。これも大体9ぐらい下がっているわけですけれども、これによりますと、血圧が高くない人でもここまで下げることによっても、再発予防が得られているということは、やはり脳卒中再発予防のためには収縮期血圧を130mmHg以下まで下げるべきだし、下げても安全だということがはっきり言えるわけです。ですから、脳卒中を一度患った人の降圧目標値というのは、130/75mmHg前後ではないかというふうに考えております。

 ただ、脳卒中を患った場合の降圧というのは、やはりゆっくり下げることが重要であるわけです。

○超高齢者の降圧薬治療のありかた

 次に、高齢化社会でのもう一つの重要な問題、80歳以上の高血圧治療のあり方ということでお話しさせていただきたいと思います。

 80歳以上の高血圧に対して、降圧薬治療が有用かどうかというエビデンスは、今のところ、ほとんどありません。しかし、60歳あるいは65歳以上の大規模臨床試験というのはたくさんあるわけで、そういうようなトライアルの中にも、5%から10%ぐらい、80歳以上の方がまじっておりますので、そういう方だけをピックアップしてメタアナリスしたのがこの論文であります。その結果をみますと、死亡に関しましてはほとんど影響ないのですね。治療をしてもしなくても影響がみられません。しかし、心血管イベントに関してはやはり、治療した方が予防効果がみとめられています。 これはどういうことかと言いますと、超高齢者の方に降圧薬治療を始めても、必ずしも生存率を改善することには結びつかないことを意味しています。超高齢者になりますと、脳卒中とか心筋梗塞以外の病気、つまり、悪性腫瘍や肺炎などの血管病以外の疾患で亡くなる方が非常に多くなるということを示唆しています。ですから、80歳以上で降圧薬治療がはじめても生存に結びつくとは限らないわけです。しかし、癌や肺炎などによる死亡がもし予防できたとすれば、心血管イベントは、やはり60歳、70歳代の方と同じように予防できることを意味しています。

そこで、後期高齢者の降圧治療の問題点とわたしなりの考え方をまとめてみました。

まず超高齢者ではエビデンスが不足しているという問題があります。それから、生命予防の体の改善に必ずしも結びつかないという可能性があるということですね。動脈硬化も非常に進行しているために、治療開始が既に遅過ぎる可能性があると。身体的あるいは社会的背景に個人差が大きく、EBMに沿わない可能性があるというわけですね。

 EBMというのは、画一的な集団なのですね。平均的な、類似した患者さんの集団における結果なわけです。ですから、超高齢者のように、それぞれの歴史があったり合併症が違う個人差が大きい集団には必ずしも当てはまらないということが言えるわけですね。

 そこで、私の考えをまとめてみますと、既に治療されている例では治療を継続します。基本的には、やはり前期高齢者と同じです。超高齢者ほど合併症、予防効果が大きいという点では同じですけれども、ここの合併症や治療後の事柄も考慮して、主治医が判断する必要があります。しかし、大事なことは、超高齢者になりますと、寝たきりだとか痴呆だとか、ADLがうんと阻害されたというような方がどんどんふえていきます。そうしますと、そういう方は心機能が低下している場合が多いのです。そのような症例に、3剤、4剤の降圧薬を漫然と投与されている方が非常に多いようにおもいます。そういう方は、1剤、2剤減らしていっても、心機能が低下しているために血圧は上がってこない場合が少なくありませ。むしろ3剤、4剤投与することは、副作用として発現している可能性が非常に多いわけです。ですから、超高齢者の方でADLが阻害されている例では必ず減量ということを常に念頭に置いた治療をしていただきたいと思います。

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