ALLHATに基く降圧治療FAQ

米国の国立機関であるNational Heart, Lung, and Blood Institute (NHLBI) がスポンサーとなった史上最大規模の降圧薬間の比較試験ALLHATの結果が2002年12月に公表されました。今後の降圧治療のガイドラインを大きく左右しかねない興味深い結果となりました。この質疑応答集はALLHAT研究のWebサイトの高血圧治療関連のFAQの一部を参考のために日本語化したものです。ALLHAT関連のリンクは以下にありますのでご覧ください。

 

ALLHATで使用された1次降圧薬一覧
一般名
研究での1日量
日本での主な製品名

H15年1月現在の日本の薬価でみた研究での1日量の薬剤コストとクロルタリドンとの[最少量〜最大量でのコスト比]

クロルタリドン

(サイアザイド系利尿薬)

12.5-25mg

ハイグロトン錠50mg

3.2〜6.5円
アムロジピン

(カルシウム拮抗薬)

2.5-10mg

アムロジン2.5mg、5mg

49.3〜186円

[15〜29倍]

ノルバスク2.5mg、5mg

リシノプリル

(ACE阻害薬)

10-40mg

ロンゲス5mg、10mg、20mg

90.8〜363.2円

[28〜56倍]

ゼストリルス5mg、10mg、20mg

74.3〜321.6円

[23〜50倍]

ドキサゾシン

(α1遮断薬)

2〜8mg

カルデナリン0.5mg,、1mg、2mg、4mg

87.8〜332.6円

[27〜51倍]

ドキサゾシン群はクロルタリドン群に比し心不全、冠動脈疾患、脳卒中の発生が余りに多く2000年2月に中止され第1次選択薬としては脱落しました。

また黒人は塩分感受性が高く、脳卒中の発生率が白人に比較して高く、どちらかというと日本人の高血圧のタイプに似ていることを考慮してお読みください。

Q: ALLHAT研究から導かれる未治療高血圧患者の薬剤選択の基準はいかがでしょう?

A: サイアザイド系利尿薬の低〜中等量が以下の2つの理由で勧められます。サイアザイド系利尿薬はアムロジピン(カルシウム拮抗薬)やリシノプリル(ACE阻害薬)よりも心不全のような高血圧合併症を低下させる点でより有効です。更に低コストのために高血圧患者の出費と医療費全体の削減につながります。

Q: 他の薬剤を処方されている高血圧患者でサイアザイド系利尿薬に変更するべきでしょうか?

A: ALLHAT研究で試された薬剤の中でサイアザイド系利尿薬は高血圧による心血管系の合併症を最も効果的に抑制しました。更にサイアザイド系利尿薬はブランド品の薬剤より低コストです。

他剤でコントロールされている高血圧患者では低・中等量のサイアザイド系利尿薬で置き換えられない理由がなければ置き換えた方がよいでしょう。というのはサイアザイド系利尿薬は高血圧による心血管系の合併症を最も効果的に抑制しました。更にサイアザイド系利尿薬はブランド品の薬剤より低コストです。もちろん置き換えるかどうかは患者と医師で決定されるべきです。

Q: 血圧コントロールのために利尿薬以外の薬剤を内服している患者で、ALLHAT研究の結果をいかに臨床での意思決定過程に組み込むべきでしょうか?

A: ALLHAT研究の結果は利尿薬は十分な忍容性があり、血圧降下も十分であり、アムロジピンやリシノプリルに比較して臨床的なイベント減少に優れています。こらのエビデンスと薬剤費からみてサイアザイド系利尿薬が高血圧治療の第1選択薬であるべきです。従って患者がすでにサイアザイド系利尿薬を内服していれば、継続することです。

臨床での意思決定過程はそれぞれの患者の状態や背景により個別化されるべきです。患者さんお臨床状態や合併症によりサイアザイド系利尿薬以外の処方が必要な場合もあるでしょう。

更に高血圧患者の大多数では血圧コントロールのために2剤以上が必要ですが、多剤併用療法にサイアザイド系利尿薬を組み込むことは合理的だと思います。

Q: 私の患者の一人がALLHAT研究にエントリーしていて現在アムロジン(又はリシノプリル)で治療中ですが、来週受診予定です。処方についてはどうすべきでしょう?

A: 高血圧治療薬の選択はそれぞれの患者の全体の臨床状況や特定の薬剤が必要な合併症があるかどうかを検討して決められます。もし患者がアムロジピン(又はリシノプリル)を内服していて血圧がコントロールされていなければ、利尿薬の追加を考慮してもいいでしょう。

もし患者がアムロジピン(又はリシノプリル)を内服していて血圧がコントロールされていれば、ALLHAT研究で利尿薬は心血管病の幾つかを予防するのに優っており、高血圧治療の第1選択薬であるべきと結論されているので、利尿薬での置き換えも考慮していいでしょう。もちろん血圧コントロールが良好である続けることを見守る必要がありますが。

Q: サイアザイド系利尿薬には低カリウム血症や高血糖などの副作用があるのではないでしょうか?

A: ALLHAT研究はサイアザイド系利尿薬治療により血糖の上昇やカリウムの低下をきたすことを確認していますので、利尿薬を投与する場合は定期的に血清カリウムを測定することが勧められます。

しかしながらALLHAT研究では血清カリウムが測定され必要があればカリウムを補給していますが、これらの代謝的な問題はクロルタリドンでのその後の臨床的なアウトカムには影響を与えなかったということが重要な点です。

ALLHAT研究の結果は利尿薬治療の忍容性は高いことを示しています。最初の処方が最後まで継続される割合は忍容性の指標のひとつですが、ALLHAT研究では5年後にクロルタリドン群での80%は継続投与されており、アムロジピン(80%)のそれと同様の忍容性であり、リシノプリル(73%)の忍容性より高かったのです。

Q: ALLHAT研究の結果では高血圧処方に影響するような民族的、人種的な違いはあったのでしょうか?

A: ALLHAT研究での民族的、人種的な違いを考える上では次の3つの点が考慮されます。(1)血圧の反応、(2)イベント、(3)副作用

(1)血圧の反応

平均収縮期血圧はリシノプリル群はクロルタリドン群に比較して黒人で4 mmHg高めで、非黒人で2 mmHg高めでした。血圧コントロールは黒人に関してはリシノプリル群よりクロルタリドン群の方が8〜13%良好でした。試験全体でもリシノプリル群よりもクロルタリドン群の方が血圧のコントロールが良かったのですが、黒人での両薬剤の違いは際立っています。

(2)イベント

クロルタリドンはリシノプリルに比較して脳卒中、心不全、狭心症、冠動脈の再灌流治療を含めた全心血管イベントの予防で優りました。脳卒中や心血管病のアウトカムはリシノプリルとクロルタリドン群間である程度の人種差が示されました。

リシノプリル群の黒人はクロルタリドン群の黒人より脳卒中が有意に高率に発生しましたが、非黒人では2剤間での脳卒中の発生率の差はみられませんでした。クロルタリドン群に比較してリシノプリル群では黒人、非黒人を問わず全心血管イベント(冠動脈疾患、脳卒中、下肢の血行再建術、入院や外来治療を要する末梢動脈疾患、外来治療あるいは入院を要する狭心症、致命的あるいは入院または外来治療を要するうっ血性心不全)が高率でした。

(3)副作用

致命的な血管浮腫は比較的まれですが、クロルタリドン群に比較してリシノプリル群では高率であり、白人より黒人での発生が多くみられました。

黒人に関してのこれらの所見を総合するとALLHAT研究のサイアザイド系利尿薬が降圧薬の第1選択薬という重要な結論を強く裏付けると思います。

Q: 糖尿病患者でリシノプリルで血圧をコントロール中ですが、利尿薬に変更すべきでしょうか?

A: ALLHAT研究では利尿薬は糖尿病、非糖尿病を問わず、リシノプリルより心血管病に関しては10%、心不全に関しては20%の優位性が認められています。従って利尿薬に交換するか、またはリシノプリルを継続しなくてはならない明らかな適応があれば追加投与を考慮すべきでしょう。